長年、有効な治療法が見つからず発作に苦しむ難治性てんかんの患者やその家族にとって、「大麻由来のCBD(カンナビジオール)」は世界中で新たな希望の光として注目されてきました。

日本でも2024年末に大麻取締法の改正が施行され、ついに「医療目的での大麻由来医薬品の使用」が解禁されるという歴史的な転換期を迎えました。

この記事では、CBDがなぜてんかん発作を抑えることができるのかという科学的なメカニズムから、日本国内での難治性てんかん治療薬「エピディオレックス(Epidiolex)」の2025年現在の最新の承認状況まで、実践的でリアルな情報をお届けします。

てんかんとは?

てんかんは、脳内の神経細胞(ニューロン)が突然異常な電気信号を発することで、けいれんや意識の喪失などの「てんかん発作」を引き起こす慢性的な神経疾患です。

多くの患者は既存の抗てんかん薬で発作をコントロールできますが、患者全体の約30%は薬が効きにくい「難治性てんかん(ドラベ症候群やレノックス・ガストー症候群など)」に分類され、日々の深刻な発作に悩まされています。

なぜ「大麻成分CBD」が発作に効くのか?

大麻草(ヘンプ)には100種類以上のカンナビノイドと呼ばれる成分が含まれていますが、その中でも精神をハイにさせる作用(THC)を持たない安全な成分がCBD(カンナビジオール)です。

CBDがてんかん発作を抑制するメカニズムの鍵は、私たちの体に本来備わっている「エンドカンナビノイドシステム(ECS)」との相互作用にあります。

脳の過剰な興奮を鎮めるメカニズム

ECSは、睡眠、食欲、痛み、そして「神経の興奮」などのバランスを調整する重要なネットワークです。

てんかん発作は、脳の神経細胞が「過剰に興奮」することで起こります。

CBDを摂取すると、脳内の特定の受容体(GPR55受容体のブロックやTRPV1受容体の脱感作など)に働きかけ、神経細胞から放出される興奮性の信号(カルシウムイオンなど)を抑え込みます。

この「脳の電気的なショートを防ぐトランキライザー(鎮静剤)」のような働きにより、劇的に発作の回数を減らすことができると科学的に証明されています。

【2024年〜2025年最新】日本の法改正と医療用CBDの現在地

海外(アメリカやヨーロッパ)では、2018年頃からすでにCBDを主成分とした難治性てんかん治療薬「エピディオレックス(Epidiolex)」が承認され、多くの子供たちの命を救ってきました。

一方、日本では厳しい法律の壁により長らく使用が認められていませんでした。

1. 歴史的な法改正の施行(2024年12月〜)

しかし、遂に日本でも「大麻取締法」が大きく改正・施行されました。これにより、これまでの「大麻の部位(花や葉はダメ)」による規制から「成分(THCが含まれているか)」による規制へと切り替わり、厳格な管理のもとで医師が「医療用麻薬」として大麻由来の医薬品(CBD製剤)を処方できる法的枠組みが完成しました。

2. エピディオレックス(Epidiolex)の国内承認の壁

法改正によりエピディオレックスの国内解禁が秒読みかと思われましたが、ここで2025年現在のリアルな課題が存在します。

日本国内の患者を対象に行われていたエピディオレックスの第3相臨床試験(治験)において、2024年夏、「主要評価項目を達成できなかった(統計的な有効性が証明しきれなかった)」というニュースが発表されました。

海外との遺伝的な違いや、併用薬の影響などが原因として推測されていますが、これにより日本での新薬承認の手続きには遅れが生じており、患者の元に正式な医薬品として届くまでには、もう少し時間がかかる見通しとなっています。

市販のCBDオイルと「医薬品」の違い(懸念事項)

現在、インターネットや店舗で「健康食品(サプリメント)」として販売されているCBDオイルと、医療用のエピディオレックスは全くの別物です。以下の点に注意が必要です。

1. 品質と濃度: 市販のCBDオイルは品質管理がメーカーごとにばらつきがあり、てんかんを抑えるのに十分なCBD濃度を含んでいない(または高価すぎる)場合があります。
2. 既存の薬との相互作用: CBDは肝臓の酵素(シトクロムP450)に影響を与えるため、現在服用している抗てんかん薬の血中濃度を変化させてしまうリスクがあります。
3. 自己判断は厳禁: てんかん治療の補助として市販のCBD製品を試したい場合は、必ず主治医に相談してから行うようにしてください。

結論

大麻由来のCBDは、既存の薬で効果が得られなかった難治性てんかん患者にとって、間違いなく人生の質(QOL)を劇的に向上させる強力な可能性を秘めています。

日本の法整備という最大のハードルは越えたものの、医薬品としての正式な承認にはまだ少し時間がかかります。

今後の厚生労働省の臨床研究や、CBD製剤の国内展開のニュースから引き続き目が離せません。

参考

大麻由来医薬品 エピディオレックスとは? 国内でも始まる臨床試験(治験) | ASA Magazine

GW Pharma、カンナビジオール内用液「GWP42003―P」の第3相臨床試験で最初の患者に投与されたことを発表 | GW Pharma 株式会社のプレスリリース

Effect of Cannabidiol on Drop Seizures in the Lennox–Gastaut Syndrome | New England Journal of Medicine (nejm.org)

Trial of Cannabidiol for Drug-Resistant Seizures in the Dravet Syndrome | New England Journal of Medicine (nejm.org)