この研究は、喘息用タバコに関する調査を行い、その添付文書、薬事制度、日本薬局方の変遷を追求しました。
研究者は、国立国会図書館、東京大学医学図書館、東京大学薬学図書館など、さまざまなリソースを研究に利用しました。
喘息用タバコの開発と流通に携わった人々に関連する伝記や文献も調査しました。
明治時代医療用大麻?
喘息煙草(桐製の箱およびタバコ)
明治時代初期、日本では「喘息煙草」という売薬が販売されていました。
これは、喘息の治療に効果があるとされたタバコ状の薬です。
喘息煙草の主な成分は、インド大麻(Cannabis indica)でした。
大麻には気管支拡張作用があることが知られており、喘息発作の際に吸入することで、呼吸困難を緩和できると考えられていました。
喘息煙草の説明書
喘息煙草は、緒方惟準(オガタコレヨシ)という蘭学者・陸軍軍医が発明しました。
惟準の弟で薬剤師の緒方惟孝(オガタコレタカ)と、適塾の塾生で薬舗を営んでいた小林謙三が、この喘息煙草を製造・販売することになりました。
1886年(明治 19)に制定された日本初の薬局方「日本薬局方」の初版に、インド大麻(Cannabis indica)が収載されています。
喘息煙草の存在が、大麻を医薬品として正式に認めるきっかけとなったのかもしれません。
大麻は1932年(昭和 7)の第5版日本薬局方まで継続して収載されました。
『受験必携 生薬学粋』における印度大麻草
しかし第二次世界大戦後、GHQにより大麻が規制物質として指定され、1951年の第6版日本薬局方から削除されます。
150年以上にわたり医薬として用いられてきた大麻の歴史に、一時の終止符が打たれたのです。
明治政府は西洋医学の導入とともに、医薬品の品質管理のため日本薬局方の制定や薬事法規の整備に取り組んでいました。
喘息煙草の存在は、当時の売薬をとりまく制度の変遷を象徴するものでした。
さいごに
大麻が医薬品として150年以上も前から日本で使用されていた歴史は、今となっては驚くべき事実です。
法的規制により医療応用が制限されている現状ですが、大麻の可能性を科学的に研究することの重要性は変わりません。
喘息煙草は、大麻の医薬品としての歴史を物語る貴重な遺産です。
現在、大麻は医療用途への利用が再び注目されていますが、その歴史や可能性を理解するためにも、喘息煙草の存在を忘れてはなりません。
参考
jstage.jst.go.jp/article/jjhp/55/2/55_194/_article/-char/ja
J-STAGE